24時間ほど前、「嘉手納統合案はアメリカの「請求書」と心得るべし」というタイトルで長めの文章を書いたのですが、サイトの不具合で原稿が消滅してしまいました。バックアップを取っていなかったので、改めて書き直す元気もなく、がっかりです。
要点だけ改めてまとめておくと、嘉手納統合案を出したレビン、マケイン、ウェッブはいずれも議会の大物。日本政府は「立法府の発言だから」といって、当面出方を見るような姿勢を見せていますが、この提案はオバマ大統領と近いウェッブ議員が記者会見を行ったところを見ても、ホワイトハウスとのすり合わせをしていると考えるのが妥当。なのに、日本は「現行案のみ」という立場を明らかにしているので、ちょっとセンスが悪いかな、という気がしています。
今回の嘉手納統合案については、原則賛成。沖縄の問題は生煮えの議論をしてはいけないと思っているが、基本的な考え方としては「消去法的選択」しかないと考えている。優先順位から言うと、まず最悪のシナリオは普天間の固定化。辺野古にしても嘉手納統合案にしても、地元が反対する限り、普天間は必ず残る。それだけは避けるべきである。
次に消去法の対象となるのは県外移設。何といっても沖縄の米軍基地の問題は日本の問題であると同時に、アメリカの問題でもある。動く主体であるアメリカが反対する限り、何も起こらない。アメリカが納得する提案をしなければならないが、グアムにすべて海兵隊の部隊を移すことはアメリカにとって何のメリットもないだけでなく、デメリットばかりである(財政支出も含めて)。なので、県外、国外という選択肢は極めて弱く、結果的に沖縄県内での移設という選択肢しかなくなる。元の文章では、鳩山発言についていろいろと文句をつけ、民主党の「思いつきの大英断」の馬鹿らしさを書いていたが、それは繰り返さない。
消去法で沖縄県内の移設ということになると、候補になりうるのが現行案の辺野古ということになるが、ここも選択肢としてはかなり厳しい。名護市長選以降、現実味がなくなった話であろう。これも鳩山発言で条件が変わってしまったため、2009年以前であれば選択肢としてはありえたが、現在ではもう無理と判断するしかない。
なので、嘉手納統合案は消去法的にいうと一番ハードルが低いと感じている。というのも、これまで嘉手納統合案を否定する理由として乱暴にまとめると(1)空軍と海兵隊が基地をシェアすることを嫌っている、(2)嘉手納町が騒音問題で反対している、(3)沖縄県民感情として県内移設に反対している、ということになろう。
このうち、(3)については、どうしようもない状況なので、(2)と合わせて地元が納得いくオファーをするしかないであろう。それは騒音の軽減など、すでに仲井真知事が条件を出しているが、それらの条件が出てくるということは、事態が前進する芽があるということである。
また、今回は(1)の問題がクリアできそうな予感がある。というのも、そもそも嘉手納案を否定してきたのは米軍であるが、上院軍事委員会の重鎮が嘉手納統合案を提案しているということは、軍のレベルで反対できるような状況ではなくなった、ということが言える。今のところ、ホワイトハウスからのメッセージはなく、ペンタゴンなどは当面現行案を重視するという立場をとっているが、それも不変のものではない。なので、嘉手納統合案の大きなネックであった(1)が解決すれば、その分ハードルは下がる。
普天間の問題を何とか解決するために、ベストの策でないことは明らかだが、Lesser evilという選択で考えていくと嘉手納統合案は有力であろう。
しかし、もうひとつ嘉手納統合案が有力だと思う理由がある。それは、東日本大震災で米軍が「トモダチ作戦」を展開し、アフガニスタン、イラク、リビアと紛争を抱えているにも関わらず、2万の兵力を出し、空母一隻を出して救援活動をしたことは、何にも代えがたい支援であった。これはアメリカの善意からでたものであるが、同時に、それは「タダ」ではない。アメリカとしては、救助、復興支援をした善意の見返りとして、日本の善意を求めている。この「請求書」をきちんと支払わなければ、日米関係はどうしようもない問題に直面することになるだろう。この場合の「請求書」はもちろん普天間問題の解決である。この時期に嘉手納統合案が出されたのも、そういうニュアンスで受け取るべきである。
したがって、日本政府はアメリカの善意にこたえるべく、何としてでも普天間問題を解決しなければならず、今回の嘉手納統合案はそのためのサジェスチョンとして見るべきである。議員の提案だから関係ない、というのはアメリカの政府の構造から言っておかしな話である。日本では「政府=行政府」というイメージがあるが、アメリカでは「政府=行政、立法、司法府」を指す。軍事委員会の委員長と重鎮、そして東アジア太平洋州小委員会の委員長が連名で提案した嘉手納統合案を日本政府が一顧だにしないというようなことがあれば、議会は日米関係に影響を与えるようなさまざまなことをやってのける権限を持っている。なので、この「請求書」を無視するということはあり得ない選択である。
果たして民主党政権はアメリカの意図をくみ取ることができるか、それにこたえることができるか。この問題の解決いかんでは、日本の将来を大きく左右する問題にもなりかねない。
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