2011年5月13日金曜日

嘉手納統合案はアメリカの「請求書」と心得るべし

ある意味、唐突な感じも受けたが、アメリカ議会の軍事委員会の重鎮である民主党のレビン、共和党のマケイン、そして東アジア太平洋小委員長の民主党のウェブによる普天間基地の嘉手納基地への統合案が提案された(朝日新聞の記事)。

個人的には、この案は最善ではないとしても、もっとも現実的な判断だと考えている。沖縄の米軍基地問題は専門ではないので、あまり深入りしたことは言えないが、とりあえず、この問題を私なりに整理してみたい。

沖縄の問題を考えるのは、どうしても消去法的考え方で整理せざるを得ない。というのも、「理想の解決」をいくら声高に叫んでも、それが現実的な選択として有効でないなら、結局鳩山さんと同じ轍を踏むことになるからである。

なので、まず消去法として考えていくのは沖縄からの米軍基地の完全なる撤退である。もちろん、それは不可能ではない。しかし、現実的とも思えない。米軍再編を進める中で、これだけ巨大なインフラを持つ沖縄を手放す選択をアメリカがするとは思えないからである。米軍再編のポイントは、一言でいえば、バラバラになっている米軍の能力を集約し、効率化するということである。そのためには、大きなところにまとめる、という話になり、西太平洋ではグアムと沖縄、ということになる。また、目の前の中国のことを考えれば、米軍にとって沖縄の重要性は冷戦期以上に高まっているともいえよう。なので、「最低でも県外、国外」というオプションは現実的とは思えない。

では、米軍基地が沖縄に残るということを踏まえて考えると、沖縄と日本にとって最も悪い選択肢は何か、と考えると、普天間の固定化である。「世界一危険な基地」といわれる普天間が存続されることは全く望ましいとは思えない。すでにリスクが高く、沖縄の人々の生活を傷つけているだけでなく、普天間が「悪の米軍」というイメージの象徴になってしまっているレピュテーション・リスクも大きい。したがって、現状維持という選択肢も消去法的に消さなければならない。

普天間の固定化を避けるためには、必ずどこかに普天間の能力を移転させなければならない。辺野古や嘉手納に移すに反対することは、すなわち普天間の固定化につながる(少なくとも、動けない間は暫定的に使い続け、それがいつ終わるか分からない状態になる)。なので、どこかに移すという選択肢しかない、というのが現状であり、第一の消去法的議論から出された結論として、アメリカの意向を無視して決定することができない(むしろ動く主体はアメリカなので、アメリカが納得しない限り、海兵隊は普天間を使い続ける)ので、アメリカが沖縄に基地を維持するということであれば、普天間以外の沖縄県内という選択肢しかなくなってくる。

その中で、現実的な選択肢として残っていたのが辺野古のキャンプ・シュワブに移転させる選択肢である。しかし、これもSACO合意、2006年の合意がありながらも、結局、強い反対に合って、前に進まない状態になっている。この点についてはさまざまな議論がなされており、改めて私がそれを論じても仕方がないので、ここでは割愛するが、少なくとも辺野古に作るということには多少の合理性はあったと思う。海兵隊のキャンプに隣接している飛行場であれば、即応性を問われる海兵隊としては無駄な時間をかけずに出動することができるので、米軍としてもAcceptableであると思われる。日本政府(東京)としても普天間が移設されるということであれば、何らかの手柄になる。沖縄の現地にも補助金や公共事業が発生し、経済的なプラスがある。その意味では、少なくともSACO合意の段階では、何らかの合理性(かなり無理をした結論ではあったと思うが)が成立していたように思える。

しかし、鳩山発言が飛び出し、民主党政権が成立し、そこで新しい未来、つまり米軍基地のない沖縄を想定することができる、という希望が生まれてしまい、そこから状況は大きく変化した。すでに述べたように、沖縄における米軍基地の問題は、日米沖の政治的現実性ではなく、沖縄の現実の問題としての米軍基地問題という議論になってしまい、米軍基地の撤退を求める沖縄と、沖縄から離れることを考えていない米軍、そしてその間を無責任に行き来し、問題を解決できない民主党政権、という構図が出来上がってしまった。それを立証するかのように、ウィキリークスの記事が流れ、民主党政権の無責任さが際立ってしまったため、さらに問題を解決することが難しくなった(ウィキリークスの記事:朝日新聞の特集ページ)。その結果、辺野古への移設は現実的に実現不可能な状況になってしまった(それまでも十分、移設は不可能に近かったと思うが)。

そんな中で、アメリカのサイドから嘉手納統合案が出された意味は大きい。提案したのが大物であるレビン、マケインであるというだけでなく、オバマと関係の深いウェブも提案者として入っており、間違いなくホワイトハウスとすり合わせをしたうえでの提案とみるべきであろう。つまり、行政府の人間が嘉手納統合案を発表するということは、さまざまな意味で差支えがあるため、立法府の人間、しかもかなりのニュースバリューのある人たちが提案するという形にすることで日本に向けてメッセージを送っているものと考えられる。

この提案が、このタイミングで出てきたのは、いろいろな意味があるだろう。一つは、2010年の中間選挙で共和党、とりわけティーパーティーと呼ばれる減税主義者、財政均衡主義者、財政支出削減派の圧力が高まったことがある。米軍再編に伴う様々な支出が困難となり、できるだけ財政支出(軍事支出)を削るという圧力があるなかで、普天間移設の問題を放置しておくわけにはいかない、という状況になってきたことがあるだろう。

しかし、もっと重要なのは、アメリカが日本に対して「請求書」を突き付けてきた、というニュアンスだろう。震災後、米軍はアフガニスタン、イラク、リビアの問題を抱えながら、2万人の部隊と空母を日本に送り、「トモダチ作戦」を展開した。日本人として、この支援を忘れるわけにはいかないが、同時に、これは「無料」ではない。アメリカももちろん善意で派遣していると信じているが、同時に、日本の善意を期待していることも確かだと考えている。つまり、アメリカは日本が今アメリカに対してできる感謝と誠意を見せることを求めていると考えられるのである。

そのため、嘉手納統合案をレビン、マケイン、ウェブが提案し、日本に決断を迫っているのである。とりあえずの日本の対応は、枝野官房長官が「日米合意を遵守する」というものであり、アメリカの意図をきちんと理解しているような発言ではなかったように思われるが、これから大使館やさまざまなチャンネルを使って、アメリカとやり取りしていく中で、アメリカの真意を理解し、その対応に迫られることになるだろう。

嘉手納統合案はこれまで何度も出てきては消えていた案であった。そのひとつの理由は、新しく箱モノを作るわけではないため、うまみが少ない、ということがあるだろう。嘉手納基地を訪れたことがある人はわかると思うが、きわめて広大な敷地があり、新たに建物を建てるといったことはあっても、大規模な開発ではないため、公共事業に伴う利権はあまり発生しない。そのため、嘉手納統合案に熱心にならない政治家もいるだろう。

しかし、嘉手納統合案を阻んでいたのは、米軍内部の問題である。嘉手納は空軍の基地であり、普天間は海兵隊の基地である。空軍が自分たちの場所に海兵隊が来ることをきわめて嫌がっていて、それが嘉手納案を葬っていた理由の一つでもあった。日本からみるとあまりピンとこないかもしれないが、アメリカの四軍(陸、海、空、海兵隊)の関係はあまり良くない、というか、お互いライバル視しており、自分たちの基地、自分たちのテリトリーを荒らされることを好まない。そのため、無駄な重複が多く、米軍再編はそうした重複を減らし、統合運用(陸軍と海軍といった異なる軍種を一つの指揮系統の中で運用すること)を進めていく、という方向性を示している。この統合運用はあくまでも運用、つまり戦地や訓練の時に他の軍種と合わせて行動することを意味しており、彼らの寝床である基地を統合するというところまでは行っていない。それだけに、嘉手納統合案はかなり「アバンギャルド」な案なのである。

しかし、大きな目で見れば、日米関係の問題を解決する上で、米軍内のごちゃごちゃした関係はあまり大きな問題にならない。そのため、嘉手納に統合するというのは、アメリカサイドががんばれば、実現可能性は高い、と考えることができる案だったのである。

もちろん、日本にも嘉手納統合に反対する人たちはいる。地元の嘉手納町は徹頭徹尾反対している。それは当然のことであろう。しかし、嘉手納に反対し続ければ普天間が残る。嘉手納の人々に苦労をかけることが良いのか、普天間を残すことが良いのか。民主党政権はこの「悪魔の選択」をしなければならない状況に追い込まれている。しかし、この「悪魔の選択」を回避する方法はない。東日本大震災であれだけの善意を見せたアメリカに対して、何も答えないことは、日本の将来をかなり危うくする。ゆえに、いよいよ、決着をつけなければいけない時がきたのである。

0 件のコメント:

コメントを投稿