2011年5月5日木曜日

不気味な沈黙

昨日の朝日新聞でウィキリークスが暴露した米国公電の記事が掲載された(朝日新聞の特集コーナー)。自民党政権の末期と民主党政権の初期(つまり麻生政権と鳩山政権)を中心とした駐東京米国大使館からの公電が主なものであり、沖縄・普天間基地に関するものや、民主党政権に関するものが解説されている。

いずれ出てくるものだろうと思っていたので、ウィキリークスの公電が出てきたことには驚かなかった。公電の中身についても、ある程度想像できる範囲の話であり、その意味ではスクープ感はあまり強くなかった。民主党政権の発言がバラバラでブレまくっていることは、すでに良く知られていたことだし、自民党政権時代に何とか密約で問題を解決しようとしてきたのも、かなり想像できる。嘉手納統合案も早いうちから岡田外務大臣(当時)が明らかにしていたので、珍しいというものではなかった。

ただ、今回の朝日新聞の報道に対し、驚きというか、気になることが何点かある。そのひとつは、朝日新聞が原文を紹介していない、ということである。ウェブには日本語訳は出ているが、原文へのリンクなどがまったくない。ウィキリークスと協力する欧米のメディアはウェブ版では必ず原文を載せている。朝日新聞の翻訳能力を信頼するとしても、やはり原文を掲載しなければ、朝日新聞の解釈の入った情報だけで議論せねばならず、どうも居心地が悪い。

もうひとつ、気になる点は、ほとんどのメディアが朝日新聞の「スクープ」をスルーしていることである。確かに、他社の特ダネを後追いするのもなんだし、現在進行中の話ではないので、後追いをする必要はないとしても、どうもこの沈黙が不気味だ。特に、朝日新聞系列のテレビ朝日でほとんど扱われておらず、『報道ステーション』でも一言も触れられていなかった点は疑問が残る。翌日(今日)の新聞でも読売新聞が記事にしていたが、日経新聞は一切触れていなかった(それ以外の新聞は確認していないが、ウェブ版で見る限り毎日新聞は比較的詳細にフォローしているが、産経新聞は一切触れていない)。

ウィキリークスの情報をどう見るかについては、いまだに論争があり、それを丸ごと信頼するのにもためらいがある。しかし、こうした記事が出たことで、日米関係や沖縄問題がどう変化するか、ということについては検討する価値があると思われる。しかし、記事そのものが「朝日新聞の勝手にやっていること」というところに閉じ込められてしまうと、議論がゆがんだものになってしまいそうな気がする。

なんとなく、今回朝日新聞が抜いたウィキリークスの公電そのものを無視し、なかったことにしてしまおうという流れができているような気がする。確かに、震災関連のニュースやオサマ・ビン・ラディンの殺害など、ニュースの価値の高い話は無数にあり、この時期に朝日新聞がウィキリークスの記事を出すのもよくわからないが、なかったことにしてしまうような記事ではないような気がしている。少なくとも、将来、日米関係を研究する歴史家が30年後にやるであろう仕事を、今できる、ということだけでも意味があるような気がする。歴史家の人たちからの声が聞きたいところだが、その第一人者は復興構想会議でお忙しそうなので、いずれ誰かが発言するのではないかと期待している。

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