2011年5月8日日曜日

エコはどうなる?電気自動車はどうなる?

一昨日、菅首相は唐突に中部電力の浜岡原発の停止を要請することを発表した。大地震が発生する確率の高い場所にある原発を停止するというのはリスク管理の考え方からすれば当然のことなので、その決定自体は違和感もなく、納得のいくものである。一部には「大英断」という評価をする向きもあるが、これは英断というよりも「常識」の部類に入る話であろう。

それはともかく、福島第一原発の事故以降、気になっていることが一つある。それは、原発による発電がなくなり、休眠中の火力発電所の再開やガスタービン発電などの導入が積極的に行われている点である。揚水発電なども導入される予定だが、この揚水発電も、もともとは火力発電所で作られた電気を、使用の少ない夜間に使って水をポンプでくみ上げ、電力需要の高い時間帯に水を落としてタービンを回して発電するというものだから、電気エネルギーを使って位置エネルギーを獲得しているだけであり、火力発電の量が減るわけではない。

となると、これまで地球温暖化の「悪者」として見られてきた火力発電が、今後の電力供給の中心になっていくということになる。果たして、それはどういう問題を抱えることになるのだろうか。

第一に、民主党政権が掲げた「1990年に比べて温室効果ガスを25%削減する」という公約は確実に破棄されることになるだろう。すでに京都議定書の第一約束期間(2012年まで)に6%の温室効果ガス削減を約束しているにも関わらず、現時点で1990年に比べて7%も増えている(つまり差引13%も約束を破っている)ことを考えると、25%という数字は現実的ではない。さらに、民主党政権が目指してきた目標を達成するためには、原子力発電を圧倒的に進めていくという政策が柱としてありました。エネルギー基本計画では2020年までに9基、2030年までに14基の原子炉の新規建設が計画されており、再生可能エネルギー(太陽光発電など)は2020年までに10%程度にするとは言っていますが、基本的には原発に寄りかかった計画になっています(平成22年度エネルギー基本計画)。しかし、すでに被災して停止している福島第一、第二、女川原発に加え、浜岡原発の停止は明らかに原発に依存した温室効果ガスの削減にマイナスになっているほか、不足している電力を火力発電によってカバーするということになると、温室効果ガスの排出はさらに増加することになり、とてもではありませんが、25%削減などは不可能になります。

これは日本だけの問題だけでなく、世界的にそうした問題に直面しています。ドイツやイタリアだけでなく、世界的に反原発の運動が進んでいくと、原発を止める代わりに火力発電を推進するという話になっていくので、結果として温室効果ガスはどんどん排出され、温暖化は進むということになるでしょう。まあ、要は原発のリスクをとるか、温暖化のリスクをとるか、ということになってくるわけですが、その温暖化のリスクのほうがリスクとして小さい(または意識しにくい)ので、後回しになっているということなのだろうと思います。

さて、そうなると、どのようなエネルギー政策を進めるべきか、という問題がこれから出てくると思います。一つは無理やりにでも原発を推進し、温暖化を止めようという動きがあり得ます。アメリカのオバマ政権やフランスはそうした立場をとっています。つまり、今回の福島第一原発の問題は日本の問題であり、自分の国ではそうしたリスクは大きくないと考えている場合、こういう判断になるのだと思います。もうひとつは、再生可能エネルギーの割合をどんどん増やしていくべきだ、という考え方です。これは一番「正しい」議論ではありますが、再生可能エネルギーのコストはいまだに高く、それを実用に足るレベルに引き下げるまで国家が補助し続けるというのはかなりの財政負担になります。それができる国というのは極めて限られており、再生可能エネルギーを積極的に使っているアイスランド(火山があるので地熱発電が盛ん)やデンマーク(風力発電が盛ん)といった、比較的小さな国や人口が少ない国では可能であっても、日本のような国では難しいだろうと思います。三つ目の考え方は、電力の消費を極力少なくしていくということです。すでに東京電力管内では、かなり節電の努力がなされ、明るすぎた東京の街がかなり暗くなったり、エスカレーターが止まっていたりする光景はすでに見慣れてきた感があります。これでもまだまだ電力消費が減ったとは言い難いところはありますが、火力発電を減らし、再生可能エネルギーだけで何とかなるほどの省エネというのは非常に大変だろうと思います。

この点から敷衍して考えると、電気自動車がどうなるのか、ということについても気になっています。これまで電気自動車(EV)は地球温暖化のホープとして見られており、ガソリンを燃焼しないので、温室効果ガスを発生させない、ということが期待されていたわけですが、その基本には、「原発で発電した電気を使った電気自動車であれば、発電のCO2もガソリン燃焼のCO2も発生しない」という考え方があったのだと思います。

しかし、結局、車を走らせるエネルギーが火力発電によって作られたものであるとすれば、結果的にCO2の排出にはそれほど大きな効果がないのではないか、という問題が出てきます(実際はガソリン燃焼の分が大きかったので、それが減る分は大きいのですが)。それ以上に問題となるのは、電力不足の中で、電気自動車を走らせるための電気が十分得られるのか、ということがあります。電気自動車の普及がまだ進んでいないこともあり、電気自動車向けの電力需要はそれほど大きくないので、大きな問題にはなっていませんが、電気自動車が普及していくと、この辺もどうなっていくのか、気になるところです。

ただ、スマートグリッドといわれる、新たな電力需給管理の仕組みでは、電気自動車を「大きな蓄電池」として考え、太陽光発電などで生んだ電気を自動車の中にため込み、夜はそこから電気を取り出して使う、といったことが考えられてきました。そうなると、電気自動車は大きな蓄電池という位置づけとなり、新しい電力事情の中で、新しい役割を担うことになります。ただ、残念ながら、現在の電気自動車は電気をため込むことはできても、ためた電気を引き出す仕組みというのが整っていないので、そこをどうするのか、という技術的な課題が生まれてきます。

いずれにしても、当面は火力発電に依存する限り、温暖化問題は脇に追いやられていくことは間違いないでしょう。その間、再生可能エネルギーへのシフトを進めると同時に、スマートグリッドを実用化し、電気自動車を「大きな蓄電池」として活かしながら、節電が当たり前となるようなライフスタイルを確立していく、ということが求められるのだろうと思います。

残念ながら、菅首相が浜岡原発を停止するという発言をした時、こうしたビジョンを持って話をしていたとはちょっと考えにくく、なんとなく目の前に浜岡原発の問題があるから、それについてとりあえず停止を要請した、という風にしか見えませんでした。浜岡原発を止めることには異論はありませんが、それにしても、近視眼的というか、場当たり的というか、ビジョンのなさというか、そういうところが目に付いてしまい、良いニュースであるのにもかかわらず、残念な思いです。

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