2013年9月14日土曜日

軍事技術に無邪気に近づいていくJAXA

昨日、イプシロンに関するコメントを掲載したが、もう一つ気になっていることがあるので、連日の投稿になりますがご容赦ください。

その気になっていることとは、来年度の概算要求で文科省から出された、超低高度衛星技術試験機(SLATS)と呼ばれる衛星です。

この衛星は高度200-300kmと、宇宙空間とはいえ、地球の重力と大気の影響を受ける軌道を周回する衛星で、地球に近いところから画像を撮るため、非常に高い分解能(解像度)を持つ衛星になると考えられています。

地球に近いと、すぐに重力に引っ張られ、大気に寄る空気抵抗を受けるため、すぐに大気圏に突入してしまいそうなのですが、そこで「はやぶさ」で実証されたイオンエンジン(太陽光パネルによって発電された電気で推進力を得るエンジン)を活用し、軌道位置を維持するということが想定されています。イオンエンジンは電力で動くため、軌道位置を維持するための燃料を積む必要がなく、長期間にわたって燃料切れの心配なく運用できるという特徴があるとのことです。

これ自体は技術的に興味深い計画であり、実際に打ち上げることになれば、世界にもインパクトを与えることが出来る衛星だと思います。しかし、イプシロンと同様、この衛星は安全保障という観点から見ると、色々と問題があるように思っています。

というのは、これだけ低高度の軌道を飛翔し、分解能の高い画像を撮ることができるということは、偵察衛星の機能と全く変わりがない、ということです。まだどの程度の分解能にするのかは決まっていないのですが、有効開口径(簡単に言えば望遠鏡のサイズ)が30センチだと40-60センチの分解能、50センチだと20-40センチの分解能、70センチだと15-25センチの分解能という想定がなされています。分解能とは、どのくらいの大きさのものを識別できるか、という能力を計る尺度で、現在使われている情報収集衛星が60センチ(一辺が60センチの物体であれば認識できる)なので、このSLATSは、それよりもはるかに高い分解能を持ち、アメリカなどが偵察衛星として使っている衛星とほとんど同じ性能を目指していると言えます。

果たして、これだけ高分解能の衛星をもって、何に使うのでしょうか。JAXAの資料(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/059/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2013/09/06/1338400_8.pdf)によれば、技術実証の他、大気密度に関するデータの取得、原子状酸素に関するデータの取得、小型高分解能光学センサによる高分解能撮像、というミッションがある、と措定されています。

つまり、JAXAはそれだけの高分解能画像を取得することについての問題意識というか、安全保障上のインプリケーションについて、何も示しておらず、ただ「高い能力を持った衛星を作ったぜ!」ということだけを目指しているとしか読み取れません。その技術が持ちうる、政治的・社会的問題について、全く無頓着に高性能の衛星を開発するということは、果たして国の政策として適切なのか、疑問が残ります。

私はJAXAが安全保障目的の衛星を開発することに反対するわけではありません。宇宙基本法では、日本と世界の平和と安全にかかわる衛星を作ることは認められています。なので、原理的に「安全保障・防衛に関連する衛星を作るべきではない」という主張をするつもりはありません。

しかし、このSLATSを打ち上げた時、世界はこの衛星をどう見るのか、と考えると、変な誤解を生む可能性があるということは懸念しています。世界の宇宙コミュニティ、安全保障コミュニティ、諜報機関は「日本は高性能の偵察衛星を打ち上げた」と認識することは容易に想像できます。さらに「日本はなぜこれだけの高性能の偵察衛星を打ち上げる必要があるのだろうか?ひょっとして、関係が悪化している国に対して軍事攻撃を仕掛けるつもりなのではないか」という疑問が生まれる可能性も否定できません。

そういう疑問に対して、JAXAはどう答えるつもりなのか、全く明らかにされていません。仮に内閣府の宇宙戦略室が、将来にわたって日本が高性能の偵察衛星を保有し、それによって地域の平和と安全を守ることをめざし、その衛星が撮影した画像は公開する、といったことを表明するのであれば、他の国々の人達も、ある程度納得するかもしれません。ないしは、純粋に「現在、日本は外国からの脅威にさらされているから、それを監視する必要がある。しかし、これは外国を攻撃することを目的とせず、監視をするためだけに使う」という言い方でもよいかもしれません。

しかし、今回、概算要求に出された資料からは、その衛星が撮った画像をどう使うかもはっきりせず、内閣府からも、宇宙政策委員会からも具体的な説明はなされていません。 こうした透明性の欠如というか、どのような意図をもって衛星の開発をするのかという説明の欠如は、不要な憶測を呼び、日本に対する信頼を失う可能性もあります。

私が想像するに、今回のSLATSが概算要求に入れられたのは、宇宙基本法が出来て以来、JAXAは「研究開発ばかりしていて役に立つ衛星を作っていない」という批判にこたえるため、何とか役に立ちそうな衛星を開発しよう、と意気込んだからなのだろうと思っています。その意気は良いのですが、しかし、そうして頑張って高い性能の衛星を開発しても、それが「何のために使われるのか」ということがはっきりしなければ、余計な心配を招く結果になります。

つまり、問題は、JAXAが研究開発機関として、無邪気に技術開発に邁進した結果、意図せざる結果として、諸外国から不信感を招くというところにあります。JAXAも文科省も予算がなければ生きていけない組織ですから、何とかして予算を獲得するよう努力していると思います。しかし、予算を取るために何をやってもよいというわけではありません。きちんと、その技術を何の目的で、どのように使うのか、ということをはっきり想定した上で、そうしたニーズに合わせて技術開発をするのだ、ということを明確にする必要があります。

JAXAはこれまで研究開発機関として存在しており、新しい技術、素晴らしい技術を開発していればよい、という組織でした。日本の宇宙開発が半人前で、諸外国が持っている技術にキャッチアップするという時代であれば、それでも良かったでしょう。実際、JAXA(その前身のNASDA時代も含め)が急速な勢いで技術を取得し、日本の宇宙開発をリードしてきたことは素晴らしいことだと思います。

しかし、もう時代は変わりました。日本の宇宙開発は立派に世界で通用するものになり、一人前の宇宙開発を進める段階に来ています。そうした中で、無邪気に技術開発して、新しいもの、素晴らしいものを作ればよい、というだけでは生きていけない時代になったと考えています。

いま必要なことは、JAXAが無邪気に技術開発をすることではなく、日本がどのような衛星を、どのような目的で必要としているのかを精査し、その衛星を実現するために研究開発をする、という仕組みにしていくことです。

つまり、これまでは「衛星を開発しました。どうぞ使ってください」という技術開発→利用、という流れだったのですが、これからは「こんな衛星が必要だ。だから作ってください」という利用→技術開発という流れにしなければいけないのです。2008年に成立した宇宙基本法はまさにそれを目指しているものだと考えています。

無邪気に技術開発を続け、知らない間に軍事技術と同等のものを作り、諸外国から不審に思われるようなことは避けなければなりません。 そのためにも、利用目的と手段をはっきり定めた上で技術開発をするということが大事になります。言い方を変えれば、JAXAが無邪気に技術開発をすることは、技術者の暴走と取られても仕方がないことであり、日本という国のイメージ、信頼を損ねる結果になる可能性を秘めているということです。そうならないようにするためにも、利用目的を定め、JAXAの技術開発プログラムをコントロールするための司令塔である、宇宙開発担当大臣(現在は山本一太大臣)、宇宙政策委員会、内閣府宇宙戦略室が宇宙開発計画をしっかりと策定し、それに従ってJAXAは研究開発をする、という政策の流れを作ることです。JAXAが予算欲しさに無邪気に衛星を作ることは、その流れに反することであり、宇宙政策のあり方として適切な流れではないと考えております。

28 件のコメント:

  1. 奇襲攻撃を受けないように監視衛星を配備するのは不審というよりは当然では?

    隣国が攻めてこないという前提は十年前なら私も同意できましたが、今にいたっては隙を見せればそれで戦争の引き金を引くことになると思っています。
    中国としても、民意を戦争に向けて盛り上げてしまっている以上、言い訳がなければ開戦せざる得ない。

    中国は変わると思っていたんですが、どうもそれには半世紀は掛かるのかもしれません。あの国は第二次世界大戦後も延々と侵略戦争を行ってきた国ですから、今の段階では侵略してはいけない理由が武力で提示されないい限り、中国は武力を使った自国の権益の拡大を、残念なことですが、実行するでしょう。

    日本は人口も減っていて、もう侵略や戦争、拡張主義政策が取れる国ではありません。どんな技術も軍備も、自国の即得権益を守る以上のことには投入できないので、日本が何をするかをあまり心配してもしょうがないのではと思います。
    陸軍戦力では韓国、台湾にすら劣りますし、総合的な軍事力でも中国やロシア、アメリカと比べると日本は有ってないが如き国です。
    正直、塵芥の如き日本の軍備に真剣に文句をつける諸外国というのは、侵略でも目論んでいるか、頭がオカシイのでしょう。
    軍縮を訴えたいのでしたら、中国、北朝鮮、ロシア、アメリカで活動することをお勧めいたします。

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    1. ご意見ありがとうございます。私は日本が自らの防衛のために衛星を持つことを否定しているわけではありません。ただ、それを自覚せず、きちんと外国に説明せず行うことは適切ではないと考えています。自らがどのような意図と目的をもって偵察衛星に等しい能力を持つ衛星を開発するのか、それを説明せずに「無邪気に」衛星を開発し、打ち上げるのは適切ではないと考えています

      なので、軍縮を訴えているわけではない、ということはご理解ください。

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    2. >>きちんと外国に説明せず行うことは適切ではない
      軍事についての情報は、多くの場合機密です。公開されることの方が稀です。
      武器の目的についても、通常まず説明されることは有りません。言うまでもないとも言います。


      技術開発に諸外国の許可が必要というのでしたら、以下のように答えさせていただきます:
      技術や装備を自国防衛のために開発、保有することは国家主権の一部です。そういった活動に特定の国家の許可が必要であるとすれば、許可を必要とする国家は、その主権の一部を許可を与える側の国家に委ねていることになります。
      私の考えでは、日本は国防をアメリカに委ねており、アメリカの保護国の(法的にはともあれ)立ち位置にいるため、アメリカの許しがない状態で一部技術や装備を保有することは出来ません。
      しかし、名目上日本は独立国なので、名目上日本は、条約で縛られていないあらゆる技術と装備を開発保有する権利を有しています。

      今回アメリカから文句が来ていないので、問題が有るとは思えません。他の国の許可は、日本がそれらの国家の従属国でない以上、必要ありません。


      >>「無邪気に」衛星を開発し、打ち上げるのは適切ではないと考えています
      ロケット技術と軍事はその黎明期から密接に関わってきました。国家予算で賄われていることからも分かる通り、宇宙開発の「無邪気さ」は軍事技術探求の副産物でしか有りません。そのことは開発者の方々も良く分かっていらっしゃるでしょう。

      もっともアメリカは火星に行くつもりみたいですし、そのうち本当に冒険心や知的好奇心で宇宙開発をする時代が来るのかもしれません。そういう時代が早く気てほしいものです。


      ロケット打ち上げが日本と他の国家の友好関係に響くと言うのが鈴木さんのご意見でしたら、私の答えは:
      「日本の周辺国が自国のミサイル開発の許可を日本に求めていない以上、日本がそれらの国家と対等であるならば、日本も又それらの国家の許可を必要としない。」となります。対等な国家間で、一方的な制約を受け入れる理由が有りません。

      周囲がきな臭くなければ、もっと穏やかに行けるんですが、どうも北朝鮮やら、中国やらが何処かの誰かと戦うつもりでどんどん軍拡をしてくれてますので、日本も怖い顔を作らざる得ないのですよ。そうしないと戦争になりますから。

      ただでさえ日本政府は信用出来ないし、福島は片付かないしの中で心配事が増えるのは憂鬱です。おまけに、財源がないんですが、周辺国の情勢を踏まえると、軍事拡張はしないと軍事バランスを崩して戦争を誘発するので、せざる得ないでしょう。

      と暇つぶしに見苦しい長文を書かせてもらいましたが、私達が心配しても根本的には意味が無いことです。なにせ戦争をするしないの決定権は日本には有りませんから。
      ちょっと書いていて自分でも馬鹿らしくなってしまいましたので、失礼させていただきます。

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  2. 衛星の開発自体が初耳だったため、興味深く拝読させていただきました。
    二点気になったので書かせていただきます。

    >果たして、これだけ高分解能の衛星をもって、何に使うのでしょうか。
    高分解能の衛星の使い道は、平和利用に限ってもいくらでもあると思います。環境問題の把握や土地利用調査などの公的なものから新しいビジネスの開発まで、得るものは多いと思います。

    >さらに「日本はなぜこれだけの高性能の偵察衛星を打ち上げる必要があるのだろうか?ひょっとして、関係が悪化している国に対して軍事攻撃を仕掛けるつもりなのではないか」という疑問が生まれる可能性も否定できません。そういう疑問に対して、JAXAはどう答えるつもりなのか、全く明らかにされていません。
    逆に、 戦争放棄を謳っている日本は世界からそういった誤解を最も受けにくい国の一つであるとはいえませんか? 過去に中国が人工衛星を破壊する実験を行った際に世界中から非難が集った例が有ります。また国が戦争放棄を謳っている以上、個別の案件の中でいちいち軍事攻撃利用を否定するのはむしろ無自然です。

    以上より私はJaxaが無邪気であるとは思いません。技術的にも政治的にも日本にしか作れない衛星を開発していると感じました。

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    1. 無自然→不自然です(汗)

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    2. コメントありがとうございます。確かに高分解能の衛星画像は様々な使い道が考えられます。しかし、重要な問題は、衛星を開発する際、どのような使い道を目指しているのか、ということを明示していない、ということです。

      日本がいくら戦争を放棄するといっても、近年の尖閣諸島を巡る問題や歴史認識を巡る問題は、日韓、日中の枠を超え、世界中から懸念されています。また、安倍政権が憲法改正などを主張するあたり、既に日本は戦争放棄を止め、戦争が出来る国になろうとしている、という風にアジアからも欧米からも見られているという現実があります。なので、戦争を放棄している憲法があるから大丈夫、というのはやや楽観的かと思います。

      ですので、このブログ記事にも書いた通り、こういう時勢だからこそ、きちんと使い道をはっきりさせ、どのような意図をもって、このような高性能な衛星を作るのか、ということを世界に向けて伝えていく必要があり、変な誤解を生むことの無いようにすべきだ、と考えています。

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  3. 記事、拝見しました。
    だらだらと長い記事ですが、鈴木さんの考え方の方が「無邪気」ですな。
    JAXAのしていることは結果的に狡猾だなと思いますよ。
    外交的にこのスタンスって、重要ですよね?
    あなた、JAXAの言っている曖昧なことを真に受けているの?
    逆にそっちは建前で高度な偵察衛星の開発が目的ならば、外交的にも有利に働きますよね。
    専門家のあなたが、その可能性は考慮しなかったのですか?
    あなたの論調は結論ありきで、まるでどこかのお国の方に頼まれて書いてるみたい。
    視点が片方で説得力に欠けるんだよね。
    私でも北海道大学で国際政治を教えられそうだな、と思わされました。

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    1. JAXAが狡猾に考え抜いたうえでこうしたプログラムを概算要求に入れた、という証拠があるのであれば拝見したいと思います。私が調べたり、JAXAの人に話を聞きにいった限りでは、どうしてもそうした考慮があったとは思えないので、このような記事を書きました。私も一応専門家というか、この分野の研究者として、様々な可能性を考慮し、仮説を立て、それに基づいて調査をしているつもりです。同じように研究されているのであれば、国際政治の専門家として職を得られると良いかと思います。

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  4. > イオンエンジンは電力で動くため、軌道位置を維持するための燃料を積む必要がなく、長期間にわたって燃料切れの心配なく運用できる

    イオンエンジンも推進剤必要ですよ。化学スラスタに比べたら比推力は優れるもののSFの光子スラスタや何かとは違います。
    ツィオルコフスキーの公式あたりを復習されては。

    子供には刃物を持たせるな、火を扱わせるなと言ってる親みたいですね…。
    有益な道具を安全に使わせるのが親=政治の役割のように思います。
    政治学者という立場から、政治は信用できない、あるいは何もしないものという前提なのですか?

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    1. イオンエンジンに推進剤が必要ということは理解しています。ちょっと書き方が悪かったので誤解を与えてすみません。従来の衛星のように大量の燃料を積む必要がない、という意味で書いたつもりでした。言葉足らずでした。

      政治学者は政治は信用できない、という前提があるわけではありません。ただ、政治がしばしば嘘を突いたり、人をだまそうとしたり、無意識のうちにミスを犯すものだと思っています。ですので、そういう問題を発見し、その問題に対処することを考えるのが政治学者の仕事の一つだと理解しています。

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  5. いろいろと誤解(イオンエンジンが燃料を使わない、SLATSが基本計画を受けて構想が始まった、等)があるようですが、それを置いておいたとして、SLATS自体が日本の宇宙技術の向上に大きく貢献していることは同意されていると解釈します。

    また、一般論として、全ての科学技術は防衛に通じている、と言えると思います。
    (もちろん、工学にも通じているのですが。)

    そこで質問ですが、SLATSが日本に必要だとして、JAXAはどのような手順を踏めば良い、とお考えでしょうか。

    僕自身は、問題となるのは得られた高解像データの取り扱いのみであり、しかもその取り扱いは、研究開発機関が定めるべきでは無い、と思っています。逆に、政府、内閣府、または戦略室が、SLATSデータも含めたデータポリシーを作成し、必要とあれば、その作成の過程で関係各国と調整すべき、と考えます。この調整を、政府主導で行う、という手順を踏めば良いと思いますよ。JAXAの問題では無いですよ。

    いずれにせよ、SLATSは試験機であり、実用化はまだ先ですよ。打ち上がっても、「仮にこの衛星に大口径カメラが搭載されていれば、高い解像度で撮影出来ていたかもしれない」と言えるくらいです。実用化までに、諸問題が整理されれば良いと思いますよ。

    「疑問が生まれる可能性も否定できません。」
    この言葉で議論を始める、という論法を見てみると、他の方が指摘されているように、本議論そのものの底がとても浅く感じられます。冒頭で指摘したように、いろいろと誤解されているようですし。まずは正確な情報を調べられてはどうですかね。

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    1. イオンエンジンのことについては、上記のコメントで書きましたように、私の言葉足らずでしたが、SLATSが基本計画を受けているものというのは初耳です。基本計画に書かれているASEAN防災衛星は、現在、海洋監視衛星という位置づけに変わり、その中でALOSとASNAROは出てきますが、SLATSは出てきていません。私の不勉強が問題だと思うのですが、基本計画のどこに書いてあるか教えてください。

      全ての工学、技術は軍事技術に由来するものであったり、転用可能のものであったりします。それだけに、注意深く技術開発を決めていかなければいけないと考えています。しかし、JAXAは自らの予算を獲得するため、事業を維持するために様々な技術をそうした議論なしに進めていることを懸念しています。

      私もデータの取り扱い(データポリシー)をきちんと決めてから衛星プロジェクトを走らせるべきだ、という風に考えています。その点では全く同意です。政府がきちんとデータポリシーを定めてなければいけないのですが、それが出来ていないうちに衛星の開発だけが先行するのは良くない、というのが私の意見です。ですので、JAXAはSLATSをやりたいのであれば、その前に政府と協力してデータポリシーを定める作業をしていく必要があると考えています。なので、これはJAXAの問題でもあります。

      SLATSが実験機であることはもちろんですが、外国から見ると「これは技術試験衛星ですから問題ありません」という理屈は通りません。技術試験衛星は将来的に実用に付されるものという前提で作られますから、単なる技術開発衛星だから何をやってもよいという理屈はナイーブすぎるのではないかと思います。

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    2. はじめまして。
      リンクされている資料では,政策文書・中期計画上の対応箇所として,「安全保障・防災に資する」に下線が引かれています。
      まさしく,利用→技術開発の流れではないでしょうか。
      #実際の担当者がどこに関心を持っているかは別ですが。
      また,ご存知とは思いますが,日本はこれまでも偵察衛星は打ち上げています(情報収集衛星とよばれますが)。
      http://www.mext.go.jp/a_menu/kaihatu/space/kaihatsushi/detail/1299560.htm
      JAXAにとっても外国にとっても,無邪気とか誤解とかではなく,お互い当然のこととして進む話では?
      その上で問題になるかどうかは,相手が問題にするかどうかであって,いくら説明しても同じでしょう。

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    3. コメントありがとうございます。確かに「安全保障・防災に資する」と書いてあるのですが、安全保障を担当する防衛省がこの衛星を使う、という予定は明記されておらず、防衛省の概算要求の中にもSLATSの利用に関する費目はありません。防災に関しても、内閣府の防災担当や消防庁にそうした記述はありません。

      資料に書くだけならだれでもできます。大事なことは本当にそうした利用が行われるのか、それとも単なるタテマエとして、他の省庁と摺合せせずに勝手に描いているのか、というのか、きちんと判断する必要があります。

      なので、私が「無邪気」と言っているのは、こうした「高性能の衛星を作ればきっと防衛省が使ってくれるだろう」という甘い考えのことを指しています。本当に使われるかどうかの確約もないまま、無邪気に高性能の衛星を作り、それが結局使われることなく、単に技術実証をしただけだとしても、国際的なインパクトはあります。そうした時、日本は防衛省も、新しくできるであろう国家安全保障局(NSC)でも説明がつかないようなことが起きたら、国家として自ら矛盾を抱えることになります。そういう状態を作ろうとしているのがJAXAの無邪気さだ、というのが私の主張です。

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  6. 鈴木先生が考えていることを「おしえてくださ~い」ってJAXAに直接聞いてみたら良いんじゃないですか?
    無邪気というのは「考えが浅い、思慮に欠ける」という意味で使っていると思うんですけど、鈴木先生がそう思う根拠というのがイマイチ納得できないんですよね。
    想像だけでモノを言ってるカンジで。

    例えば、想像だけの政治批判をブログに書き殴って満足してしまうような人って世の中にたくさんいると思うんですけど、ああいうのは無邪気な人のやることですよね。
    「批判」というストレス解消をしているだけなので、批判する相手が悪じゃないと困る。だから相手の話は聞かない。

    大学院の先生がそういった「無邪気」なことはしないと信じています。
    JAXAからどんな返事が貰えたのか、続報待っていますよ。
    頑張ってください。

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    1. コメントありがとうございます。私もこの記事を書くに当たり、全くJAXAから何も聞いていないわけではありません。取材先の情報を書くと、いろいろと問題があるので情報源は公開していませんが、政府、JAXA、産業界の方々から話を聞いております。資料として出すことができないので根拠がないように思われるかもしれませんが、そこは信頼していただくしかないかな、と思います。

      一応、私は職業研究者として実名でこの記事を書いています。無根拠にブログに書きなぐっているわけではないので、その点ご理解いただければ幸いです。

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  7. 皆様方のやり取りを拝読し、私感を2つばかり述べさせていただきます。

    1)超低高度衛星試験機SLATSの計画は、曲がりなりにも内閣府宇宙戦略室が取りまとめた「平成26年度概算要求における宇宙関係予算について(速報値)」にも明示されていることから、宇宙基本計画との整合性は宇宙政策委員会、宇宙開発戦略本部等で齟齬がないように道筋を明らかにすることが肝要かと存じます。 少なくともJAXA/文科省だけの一存ではないことを払しょくする必要があるでしょう。 これはイプシロンも同じではないでしょうか。

    2)超低高度の軌道を目指す衛星の検討は、SLATS以前では約40年ほど前になりますが1970年代に当時NALが中心になった「DAS(Daive and Asent Sattelite;超低高度軌道衛星)検討委員会」で、110㎞高度付近の電離層観測をミッションとして検討されましたが、現在ではその内容を示す公開資料はほとんど見当たりません。数少ない情報として次のURLで垣間見られるますのでご紹介して起きます。
    ・NAL資料「自由分子流におけるDASの空力特性」
    http://airex.tksc.jaxa.jp/dr/prc/japan/contents/NALTM0303000/naltm00303.pdf
    ・MEXT-HP 我が国の宇宙開発史「郵送系ロケットの開発」対談録
    http://www.mext.go.jp/a_menu/kaihatu/space/kaihatsushi/detail/1299158.htm

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    1. 誤字がありましたのでお詫びします。
      ・起きます→おきます。
      ・郵送系ロケット→輸送系ロケット

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    2. 資料のご示唆、ありがとうございます。確かに宇宙基本計画の中にはなくとも、今年度の内閣府からの概算要求に入っている、ということは確かです。ただ、内閣府の概算要求は、基本的に各省から上がってきた予算を取りまとめているだけで、内閣府が主導して調整しているわけではないです。なので、問題となるのは、①基本計画に無いのに文科省/JAXAがSLATSをやると言い出した、②それを内閣府/宇宙政策委員会がきちんと調整できていない、という二点にあると思います。その意味では、私のブログ記事はJAXAの側(①の問題)を取り上げましたが、②の問題は取り上げていない、という点でご指摘の通りです。

      内閣府の肩を持つわけではありませんが、残念ながら内閣府の政策調整能力はまだ限られていて、各省が提案する政策に対して介入できるほどの力はないと見ています。なので②の問題は別途議論する必要がありますが、やはり今回の問題は①の方が大きいと思い、ブログで取り上げた次第です。

      また、1970年代の議論のご紹介ありがとうございます。その頃から欧州のGOCEがやっているようなアイディアを出していたというのは大変興味深いです。技術的なアイディアは色々とあれど、それをプログラムとして予算化するまでには様々なハードルがありますので、政治学者としては、どうやってそのハードルを越えてプログラム化されてきたのか、というところに関心が行きますが、その根っこには様々な技術提案があるので、その源流をたどっていくのも面白いと思います。

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    3. 先般は匿名で投稿いたし失礼いたしました。鈴木先生にはご失念とは思いますが、先に宙の会への拙文(続編あり)に対しご意見をいただきました白子悟朗です。
      このたび、私の思いをお汲みいただいたご丁寧な返信をいただき、御礼申し上げます。

      話は変わりますが、鈴木先生Twitterで1990年の衛星調達合意へのご意見を拝見し場違いとは存じますが、私なりの思いを述べさせていただきます。(私事Twitterには参加していませんので悪しからず)

      1)宇宙基本計画で日米衛星調達合意との関係を言及されていないことは残念でした。日本が自律的に宇宙基本計画を遂行するには撤廃を含めた再考・再協議が肝要と思っております。

      2)現状合意の理解の中で、鈴木先生は”個人的には1990年の合意は「実用衛星」ではなく「商用衛星」の国際一般入札開放という話だと理解しています。なので、公共性の高い衛星は衛星調達合意の対象とせず、利用者としての国の関与を維持しつつ、実用衛星として積み重ねていくべきと考えています”と述べられています。 そのためには現状合意の「非研究開発衛星・・・「商業目的なたは恒常的サービスを継続して提供するために設計または利用される衛星」、の調達手続きを変える必要があると思います。

      日本が実用化する計画のある「準天頂衛星」・・・既に調停協議済み?、「DRTS後継衛星」や今後の実用衛星計画等々が立ち上がるごとに不毛な調停協議を必要とし、機会損失や日本の自律性が損なうことが続くことになるのではと危惧いたしますが如何でしょうか。

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    4. 先の鈴木先生の返信の中で”内閣府の調整能力云々”のくだりがありましたが、肩を持つ持たないは別として日本の宇宙基本法や基本計画をスタートした時点でその体制や機能を速やかに発揮していただくことが肝要と存じます。

      特に、この分野を専門と標榜される鈴木先生には②の課題を取り上げていただいた上での日本の宇宙政策推進の一助となられることを期待しております。

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    5. 白子様、

      普段から宙の会でのご高察などで勉強させていただいております。大変ご丁寧にコメントいただき恐縮です。

      1990年の合意についてですが、確かに王道としては正面から議論し、衛星調達合意における「非研究開発衛星」の定義を明確化する、という作業をすべきだと思います。しかし、表でそうした交渉をする限り、アメリカも硬い姿勢を示してくるでしょうし、合意を得られる可能性は低いと思います。ご説明されたように、私はアメリカ側の解釈は「非研究開発衛星≒商用衛星」であり、日本は「非研究開発衛星=実用衛星」というズレがあると考えています。しかし、すでに気象衛星やDRTSのようなケースで一般国債入札という前例を作ってしまっていますので、今から1990年の合意内容を見直すという作業をしても、アメリカは硬い姿勢を維持して、今まで通りに「実用衛星」を一般競争入札にせよ、と言ってくる可能性が非常に高いと思っています。

      ただ、留意しておくべきは1990年の合意は日米の二国間で定められた協定であり、もしその合意に違反しても、WTOの紛争処理パネルのような第三者機関はなく、相手が文句を言わなければ、それは合意違反ではない、という解釈が可能です。なので、正面から合意内容を変える議論をするのではなく、具体的なプログラムを実施していき、アメリカがそれで問題を提起しなければ、それはOKという解釈をしていき、前例を積み重ねていくことで、「非研究開発衛星=実用衛星」ではなく、「非研究開発衛星=商用衛星」という解釈に近づけていくということにすべきだと思います。もちろんそのためにはアメリカの関係機関との根回しや外交的な取引が必要になってくると思います。でも、正面から合意内容を変えていくよりは、実践を通して変えていく方が、よりうまくいく可能性が高く、時代状況にあった対処が可能になるだろうと考えています。

      また、内閣府の調整能力云々については、おっしゃる通り、宇宙基本法や基本計画を有効なものにしていくためには不可欠な部分だと思います。ただ、私は現在宇宙政策委員会に属しているわけでもなく、一介の大学教員ですから、出来ることは限られています。少なくとも、宇宙政策の研究者として、このブログの記事のようなことを発信し続け、それが皆さんの目に触れることが、今の私に出来る一番意味のあることかと考えております。

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    6. 続いての私感で恐縮ですがお付き合いください。

      本論並びに鈴木先生のTwitter上で、軍事技術/商用(民生)技術が話題になっておりますが、両技術論以前に日本の宇宙開発政策を「運用要求」を切り口で概観してみました。

      そもそも”「運用要求」を、何があっても必ず実現・達成しなければならないシステムに要求されるサービスの諸条件である”とすると、過去を含め日本の宇宙開発において商用における通信・放送、公共性がある気象や宇宙科学の分野以外(地球観測を含む)では運用要求が明確になっているでしょうか?

      私個人的には、機微に属するといわれる情報収集衛星システムや自衛隊通信衛星システムでは、運用要求が十分なのか情報開示も国民が納得できる状況ではないと思っています。 加えれば準天頂衛星システムも地球観測等も現状では中途半端な(覚悟なき)状態と思えてなりません。

      このような状況を打破するためにも宇宙政策面でのトップダウン志向が宇宙基本法、基本計画や、宇宙開発推進本部、宇宙政策委員会、さらには国民を巻き込んでの「運用要求」の議論・政策化がなされるべきでしょう。

      その上で、ボトムアック志向の研究開発が、軍事(日本では安全保障面や自衛隊?)/民生/軍民両用(Dual Use)技術の区分けで行われる事が肝要と思います。実際には軍事に特化した必要な技術は限定的で、ほとんどが民生/両用技術として前広に社会に貢献できると思いますし、軍事技術という大きな括りでの開発より多彩な効率化が期待できると思います。

      いずれにしましても、日本の宇宙政策が厳然と法制化された仕組みに則って、迅速、オープンに実行されることを期待したいと思います。

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    7. 白子様、おっしゃることは逐一納得できます。運用要求から宇宙政策を考えるということは大変重要であり、それは宇宙基本法を作り時の「開発から利用へ」という理念と共鳴するものと理解しております。

      ただ、残念ながら、まだ既得権益を守ろうとする勢力があり、ボトムアップ型の(つまり運用要求とは関係なくプログラムを進めようとする)プログラムが出されてくることが多く、それが結果的にこのSLATSのようなものを生んでいると考えています。

      情報収集衛星や自衛隊の通信衛星は、運用主体がはっきりしているため、運用要求は比較的明確であり、私の言う「出口」はしっかりしていると理解しています。確かに情報が公開されていないので、それを検証することは難しいですが、一連の文科省が概算要求してくるものよりはましだ、ということはおぼろげながらわかります。

      トップダウンの政策形成が重要だということは全く同意です。宇宙基本法では、総理を本部長とする宇宙開発戦略本部を作り、内閣府に宇宙戦略室が出来ることで、そうしたトップダウンが実現するものと期待されましたが、まだまだ40年以上続いた宇宙開発のやり方、また予算と権限を何とか維持しようと言う組織が、そうしたトップダウンを認めない、という状況が続いていると理解しています。

      なので、トップダウンは言うのは簡単で、法律を作るのも何とかなるのですが、それを実現するには、まだまだ時間がかかると考えています。政治の世界は、デザインした通りに動かないというのが常ですので、そこはあまり功を焦るよりも、時間をかけて徐々に理念に近い現実を生み出していくことしかないのかな、と考えています。

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  8. 明示していない、などと筆者は仰るが理解していないだけではないのか。衛星、ロケットの使用用途、目的などは文書として公表されております。そこでわからない点があればJAXAに直接連絡して頂ければ、一通りの回答は得れると思います。
    また、たとえば軍事目的であることが明示されるとして、それは問題視されるでしょうし、表向きの利用目的に納得出来ないのであれば、そう訴えるべきでしょう。

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    1. 他のコメントへの返信でも書きましたが、JAXAに直接連絡をする以前に、JAXAなども含め、色々な方から話を聞き、取材をした結果、このような記事を書きました。

      彼らが表に出しているロケットの使用用途や目的は単なる作文でしかなく、それ以外の様々なインプリケーションをきちんと考えていないという確信があるので、このような記事を書いた次第です。表に出ている情報をそのまま鵜呑みにしていたら政治学者という仕事は出来ません。

      表向きの利用目的に問題がなければそれでよし、というのは、原発の安全神話と何ら変わりのない話になってしまいます。政府や電力会社が「原発は安全です」と言ってきて、それを多くの人が信じた結果、原発の安全神話が確立されてしまいました。私はそうしたことを問題にしています。

      ですので、おっしゃる通り、表向きの利用目的に納得できないだけでなく、それ以外の政治・外交・安全保障の問題に対してきちんと議論していないということを問題にし、それを訴えています。

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  9. きっついコメント多いですね。なぜでしょうね。

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    1. それだけ心配しているからです。

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