先ほど、第三回の大統領候補討論会が終わった。今回は外交・安全保障がテーマであったにもかかわらず、かなりの時間が国内政策、経済政策に割かれ、本来議論すべきテーマからどんどん外れていく討論会だった。
全体の印象としては、勝ち負けがつけられるような討論会ではなく、グダグダな討論会という印象。ただ、ロムニーは過去に発言した内容とずいぶん立場を変え、なんだかいい加減な印象を受けた。外交・安全保障は一般的に現職大統領が事実関係を押さえていて、有利に進められる討論会だが、今回もそうだったといえよう。オバマは「信憑性(Credibility)」という話を持ち出したが、ロムニーの発言がコロコロ変わるという点を踏まえていえば、オバマはきちんと自分の立場がはっきりしており、実績もあるので、この攻め方は適切だったように思える。
とはいえ、中身がグダグダで、何とも評価しにくい討論会だった。以下は討論会を見ながらメモ代わりに発信したツイートです。
第三回大統領討論会が始まった。オバマはいきなりロムニーの過去の発言に攻撃をかけた。確かに過去のロムニーの発言はいい加減なものが多かったが、ロムニーが「私を攻撃することで事態は良くならない」として反撃。最初の質問はロムニーが取った感じだが、あまり中身のない議論になってしまった。
二問目はシリア問題。ロムニーはアメリカがもっとリーダーシップを発揮すべきだといったところで、オバマは「まさしく我々がやっていることだ。この問題に両者の違いはない」と切り返し、引き分け。
三問目はエジプトの問題。ムバラク大統領に執着すべきだったか、アラブの春にどう対処すべきか、という質問だったが、ロムニーは過去にオバマの立場を支持していたので、議論にならず、いきなり「世界は平和なところになるべきだ」とアメリカ外交の一般論を展開。ロムニーは攻め手がない感じ。
次の質問は世界におけるアメリカの役割。オバマはロムニーがブッシュ政権の人たちからアドバイスを受けていることを指摘。ロムニーは強力なアメリカには強い経済が必要、と経済政策を滔々と語りだす。
この第三回討論会は外交・安保がテーマなのに、ロムニーが経済の話をはじめ、オバマがそれに応じ、今度はロムニーが教育政策について語りだした。司会の人は「外交政策に戻りたいんですけど…」といっても両者は止まらない。なんだかグダグダ。
司会は「ロムニー候補は海軍の拡張を主張していますが」という質問に対し、「軍の予算は削らない。私が削る予算は…」といってオバマの医療保険制度の批判。オバマはロムニーの減税プランを批判。誰も外交・安保の話をしていない…。
ようやっとロムニーが海軍拡張の話をし始めた。ロムニーは今は海軍の船が少ないから増やすと言い、オバマは今の時代、船の数で戦争するわけではない。馬の数で戦争するわけでもない。能力が問題と切り返す。これはオバマの勝ち。
今度は同盟に関する質問で、日本との同盟も質問には入っていたが、オバマはイスラエルとの同盟とイラン情勢についてのみ語る。ロムニーはイランへの制裁強化を主張するが、オバマの議論とそれほど変わらず、インパクトに欠ける。
オバマはNYTの米イラン核協議のニュースを否定。制裁を継続し、それが効果を上げていると主張。ロムニーはオバマ政権が国際協調路線やカイロ演説などを批判し、アメリカの弱さを見せたと主張。ロムニーの話はなんとなくネオコン的なナイーブさを感じる。
オバマは中東地域における外交で誰がCredibilityを持っているか、という問題設定。イラン制裁、対テロ対策、中東の人権などの実績を強調し、オバマがCredibilityがあると強調。面白い議論になってきた。
アフガン、パキスタン問題について、オバマ政権がやっていることを基本的に承認するロムニー。しかし、テロをなくすための包括的な政策を行っていないと主張。強いアメリカのリーダーシップでテロをなくす政策を展開すると言っている。強いアメリカに皆ついてくるという世界観がにじみ出ている。
司会が「アメリカにとっての脅威は?」という質問に対し、オバマはテロリストの次に中国を挙げた。中国に甘いという姿を見せたくないのだろうか?その後の話は経済の話になり、国内の経済(雇用)政策になっている。ロムニーはそれに応じ、中国を為替操作国にすると主張。
オバマは「ロムニーは中国をパートナーだというが、その通りだ。中国への投資で儲けていたからだ」と批判。この批判は今日二度目。
中国の話をしていたのに、自動車会社の救済の話にすり替わって行ってしまった…。中国=雇用=産業政策というのはわかるが、外交の話じゃないよぉ…。しかも、雇用、産業政策についての議論に一番力が入っている…。
もう討論会終了。司会のシーファーは何をやってるんだ。外交安保の話は全体の半分もなかった。日本、欧州、南米、エネルギー、温暖化もほとんどなかった。オバマ、ロムニーの締めの言葉も経済の話。それだけアメリカが内向きになっているということなのだろう。
以上です。
東日本大震災を受けて、世の中が大きく変わっていく中で、日々のニュースに触れて、いろいろと考えなければならないテーマが出てきました。商業的な出版や学術的な論文の執筆にまでは至らないものの、これからの世の中をどう見ていけばよいのかということを社会科学者として見つめ、分析し、何らかの形で伝達したいという思いで書いています。アイディアだけのものもあるでしょうし、十分に練られていない文章も数多くあると思いますが、いろいろなご批判を受けながら、自分の考えを整理し、練り上げられれば、と考えています。コメントなど大歓迎ですが、基本的に自分のアイディアメモのような位置づけのブログですので、多少のいい加減さはご寛容ください。
2012年10月23日火曜日
October Surpriseの失敗?
アメリカ大統領選も佳境に入ってきたが、オバマ、ロムニーとも支持率が拮抗しており、かなりの接戦が繰り広げられている。
現在(10月22日時点)で、オバマがほぼ押さえている選挙人の数は230人余り、ロムニーは208人という状況で、オバマが有利である(270人の選挙人を獲得すれば当選)。まだどちらに転ぶかわからないフロリダ、オハイオ州などでの選挙戦は壮絶な状況になっている。
今年の大統領選は、連邦最高裁の判決により、これまで制限が多かった政治活動団体(PAC)が中心ではなく、Super PACと呼ばれる、それぞれの陣営を応援する団体がフル稼働している。このSuper PACは気の遠くなるような巨額の資金を集め、それを選挙活動、特にテレビCMの資金に大量投入されている。たぶんフロリダ州の人たちはニュースでオバマ、ロムニーの顔を見るだけでなく、コマーシャルの時間まで彼らの顔を見なければいけないので、相当うんざりしているように思う。
さて、こうした激しい選挙戦を繰り広げている両陣営だが、大統領選の行方を占う大統領討論会も今日(22日)で三回目を迎え、これを最後に候補者は11月6日の投票日に向かって最後の追い込みに入る。
しばしばアメリカ大統領選の最終版には"October Surprise"と呼ばれる、大統領選に影響のある出来事が起きると言われている。1972年の選挙では、先日亡くなったジョージ・マクガバン候補と争っていたニクソン大統領は、10月にキッシンジャー安全保障担当補佐官が「平和はわが手にある」といってベトナム戦争の終結を訴え、選挙戦に影響を与えた。また、1980年のレーガン・カーターの選挙では、当時イラン・イスラム革命の影響でアメリカ大使館が占拠され、大使館員が人質になっていたが、カーターはイランに戦争を仕掛けるとワシントンポストが報じたことが"October Surprise"となった(結果としては戦争をせず、レーガンの大統領就任式の直後に人質解放)。
このような歴史があるなかで、今年の選挙の"October Surprise"になるかもしれない記事が10月21日付のNew York Timesに掲載された。それはU.S. Officials Say Iran Has Agreed to Nuclear Talksという記事で、アメリカがイランと核開発に関する協議を1対1で行うという話を匿名の政府高官がリークしたという話であった。これは外交・安保をテーマとする第三回大統領討論会の直前に流すニュースとしては非常に大きな意味があり、イランの核開発問題に対してオバマ政権が成果を上げたことになるため、ロムニー陣営は大きく動揺した。
しかし、本日(22日)の紙面では、U.S. and Iran Deny Plan for Nuclear Talksという記事を出し、アメリカ、イラン両政府とも、この協議に対する合意はないと否定している。
ウェブで読むと違いがわかりにくいが、紙面で読むと興味深い。21日の記事が一面右肩(重要記事が掲載される場所)にあり、誰もが目をやる場所に書かれているが、22日の記事は国際面の中に埋もれていて、気がつかなければ見過ごす記事になっている。
果たして、この21日の記事は"October Surprise"になりえただろうか?私はやや疑問を持っている。21日は日曜日であり、日本同様、アメリカでも日曜日に政治討論番組などがあるが、そこではほとんどこの記事が取り上げられなかった。それは、外交安全保障問題が、今の選挙戦にさして大きな影響を与える議題ではないこと、そして外交安全保障問題の中でも、アメリカが派兵しているアフガニスタンや、先月大使以下4人のアメリカの外交官が殺されたリビアの問題などは関心があるが、イランの核開発については、国民的な関心が十分にない、ということもあるだろう。
なので、もしNew York TimesがOctober Surpriseを狙って21日の記事を出したとしたら、ちょっと失敗したと言わざるを得ないだろう。選挙戦が拮抗している中で、民主党支持の立場を取ることが多いNew York Timesとしてはオバマ政権に得点を与えようとしたのかもしれないが、それは私が見る限り、失敗に終わったと言わざるを得ない。
とはいえ、オバマ政権はOctober Surpriseに頼らなくても、外交・安保問題ではそれなりの成果を挙げており、特にオサマ・ビン・ラディン殺害はアメリカ国民に「強く、能力のある大統領」というイメージを作ったと考えている。その後、ビン・ラディン殺害にかかわった海軍の特殊部隊(SEALS)の隊員がオバマ大統領を批判する発言などを発表し、普段、秘密のベールに覆われた部隊の隊員が最高司令官を批判したということで話題にはなったが、選挙戦に大きなインパクトを与えたわけではなく、この話はいつの間にか消えてしまった。
本日の夜には第三回目の大統領討論会が行われるが、オバマがここで自らの実績を前面に出して勝負をつけるか、それともロムニーがリビアの大使館員殺害事件などを材料にオバマを攻撃し、その信憑性を落とすことができるか、という勝負になるだろう。その勝負の行方が大統領選を決定づけるとは思わないが、第一回討論会でロムニーが作った流れを副大統領討論会、第二回討論会でオバマが食い止めた、という流れの中で、再びロムニーが勢いを取り戻せるか、それともオバマが押し返せるか、という流れを作る分岐点になるとは言えるだろう。
現在(10月22日時点)で、オバマがほぼ押さえている選挙人の数は230人余り、ロムニーは208人という状況で、オバマが有利である(270人の選挙人を獲得すれば当選)。まだどちらに転ぶかわからないフロリダ、オハイオ州などでの選挙戦は壮絶な状況になっている。
今年の大統領選は、連邦最高裁の判決により、これまで制限が多かった政治活動団体(PAC)が中心ではなく、Super PACと呼ばれる、それぞれの陣営を応援する団体がフル稼働している。このSuper PACは気の遠くなるような巨額の資金を集め、それを選挙活動、特にテレビCMの資金に大量投入されている。たぶんフロリダ州の人たちはニュースでオバマ、ロムニーの顔を見るだけでなく、コマーシャルの時間まで彼らの顔を見なければいけないので、相当うんざりしているように思う。
さて、こうした激しい選挙戦を繰り広げている両陣営だが、大統領選の行方を占う大統領討論会も今日(22日)で三回目を迎え、これを最後に候補者は11月6日の投票日に向かって最後の追い込みに入る。
しばしばアメリカ大統領選の最終版には"October Surprise"と呼ばれる、大統領選に影響のある出来事が起きると言われている。1972年の選挙では、先日亡くなったジョージ・マクガバン候補と争っていたニクソン大統領は、10月にキッシンジャー安全保障担当補佐官が「平和はわが手にある」といってベトナム戦争の終結を訴え、選挙戦に影響を与えた。また、1980年のレーガン・カーターの選挙では、当時イラン・イスラム革命の影響でアメリカ大使館が占拠され、大使館員が人質になっていたが、カーターはイランに戦争を仕掛けるとワシントンポストが報じたことが"October Surprise"となった(結果としては戦争をせず、レーガンの大統領就任式の直後に人質解放)。
このような歴史があるなかで、今年の選挙の"October Surprise"になるかもしれない記事が10月21日付のNew York Timesに掲載された。それはU.S. Officials Say Iran Has Agreed to Nuclear Talksという記事で、アメリカがイランと核開発に関する協議を1対1で行うという話を匿名の政府高官がリークしたという話であった。これは外交・安保をテーマとする第三回大統領討論会の直前に流すニュースとしては非常に大きな意味があり、イランの核開発問題に対してオバマ政権が成果を上げたことになるため、ロムニー陣営は大きく動揺した。
しかし、本日(22日)の紙面では、U.S. and Iran Deny Plan for Nuclear Talksという記事を出し、アメリカ、イラン両政府とも、この協議に対する合意はないと否定している。
ウェブで読むと違いがわかりにくいが、紙面で読むと興味深い。21日の記事が一面右肩(重要記事が掲載される場所)にあり、誰もが目をやる場所に書かれているが、22日の記事は国際面の中に埋もれていて、気がつかなければ見過ごす記事になっている。
果たして、この21日の記事は"October Surprise"になりえただろうか?私はやや疑問を持っている。21日は日曜日であり、日本同様、アメリカでも日曜日に政治討論番組などがあるが、そこではほとんどこの記事が取り上げられなかった。それは、外交安全保障問題が、今の選挙戦にさして大きな影響を与える議題ではないこと、そして外交安全保障問題の中でも、アメリカが派兵しているアフガニスタンや、先月大使以下4人のアメリカの外交官が殺されたリビアの問題などは関心があるが、イランの核開発については、国民的な関心が十分にない、ということもあるだろう。
なので、もしNew York TimesがOctober Surpriseを狙って21日の記事を出したとしたら、ちょっと失敗したと言わざるを得ないだろう。選挙戦が拮抗している中で、民主党支持の立場を取ることが多いNew York Timesとしてはオバマ政権に得点を与えようとしたのかもしれないが、それは私が見る限り、失敗に終わったと言わざるを得ない。
とはいえ、オバマ政権はOctober Surpriseに頼らなくても、外交・安保問題ではそれなりの成果を挙げており、特にオサマ・ビン・ラディン殺害はアメリカ国民に「強く、能力のある大統領」というイメージを作ったと考えている。その後、ビン・ラディン殺害にかかわった海軍の特殊部隊(SEALS)の隊員がオバマ大統領を批判する発言などを発表し、普段、秘密のベールに覆われた部隊の隊員が最高司令官を批判したということで話題にはなったが、選挙戦に大きなインパクトを与えたわけではなく、この話はいつの間にか消えてしまった。
本日の夜には第三回目の大統領討論会が行われるが、オバマがここで自らの実績を前面に出して勝負をつけるか、それともロムニーがリビアの大使館員殺害事件などを材料にオバマを攻撃し、その信憑性を落とすことができるか、という勝負になるだろう。その勝負の行方が大統領選を決定づけるとは思わないが、第一回討論会でロムニーが作った流れを副大統領討論会、第二回討論会でオバマが食い止めた、という流れの中で、再びロムニーが勢いを取り戻せるか、それともオバマが押し返せるか、という流れを作る分岐点になるとは言えるだろう。
2012年10月17日水曜日
第二回大統領候補討論会
先ほど、第二回大統領候補討論会が終わった。第二回大統領討論会はタウンホール形式。市民が直接候補者に質問する形式で参加者はギャロップが投票先を決めていない(undecided)有権者から抽出されている。モデレーターは存在するが、質問は用意しておらず、調整する役割。今回のモデレーターはCNNのキャンディ・クローリーさん。
以下は、討論会を見ながら書き綴ったツイートに若干加筆した文章です。まとまりがない文章ですが、ご海容ください。
今回の大統領討論会ではロムニーがやたら介入してくる感じで、やや感じが悪かった。ロムニーは外形的な数字で議論をするが、単純化しているのでパンチが効いていた。討論会後もCNNでは経済問題についてはロムニー優位という評価だった。
逆にオバマは政策論で対応するが、難しい話をできるだけ簡単にしゃべろうとしているが、それでも複雑な話なのでキレの点でちょっと弱い。今回はかなり攻勢に出ていたが、やはり4年間の実績を擁護するという立場である以上、これまでにとった難しい選択を何とか説明しようとするあまり、一般の有権者にはわかりにくい話になっているという印象だった。
実際問題として、政策決定者と一般の国民とでは困難な問題に対するパースペクティブが異なる。政策決定者の立場に立てば、様々な要素を勘案して政策決定をしなければならず、しばしば不人気な選択もしなければならない。しかし、一般国民は「わかりやすい、筋の通った」政策を求めようとする。
これはアメリカだけに限らず、日本でも他の多くの国でも見られる現象である。そのため、野党の挑戦者は、国民受けする「わかりやすい、筋の通った」政策を提示し、それが実現可能だと思えるようなプレゼンテーションをする。2009年の民主党が政権を取った時も、現実にその政策が実現可能かどうか、というよりも、国民受けする話をして権力を取り、政権交代してから政策のことは考える、という姿勢がありありと見えた。今年、フランスの大統領選で勝利したオランドは、既に選挙公約の実現をあきらめ、雇用や財政政策の対応が後手に回っている。
このような現代民主主義の状況をポピュリズムと評価することもできるかもしれないが、少し違うような気もしている。オバマもオランドも政権につくと、その現実に直面しポピュリスト的な政策を実施することができない。むしろ、問題になるのは野党の時の姿勢である。ある意味「野党のいい加減公約」現象とも呼べるような状況が生まれている。これは民主主義にとって大きな問題なのではないか、という気がしてならない。
さて、話は脱線してしまったが、討論会に戻ろう。
ロムニーは税の問題で攻められていたが、何とか乗り切った感じだ。ロムニーの減税プランは弱点だったが、控除とのバランスで大丈夫と印象付けた。ただ、単なる机上の空論にしか聞こえず、やはり信憑性は低いというのが私の感想。
大統領討論会ではPivotという「話題を変えて相手の攻撃をかわす」戦術が重要とされているが、ロムニーは減税プランの話で「計算が合わない」という指摘に対し、「オバマの4年間の計算が合わないから借金が増えた」といったのはまさに戦術的なPivot。こうした対応で問題をはぐらかしたとしても、ロムニーの減税プランはやはり無理があるような気がする。
このロムニーの減税プランはずっと批判されているが、私にとって一つだけ良いことがあった。それはarithmeticという単語を知ったことである。民主党のキャンペーンでキーワードになる言葉だが、これは日本語にすると「算術」という単語。不勉強ながら、これまで知らず、ロムニーの減税プランを批判する際によく用いられる単語なのですっかり覚えてしまった。
さて、また話が脱線してしまったが討論会に戻ろう。
今回のちょっとした驚きは、ロムニーが「アメリカに職を取り戻すためには中国にルールを守らせ、公正な競争をすればよい。中国はバッタもんをつくっているずるい国だからアメリカの仕事が失われる」(大意)と発言したこと。ロムニーがいかにビジネスで成功しようが、オリンピックの運営に成功しようが、アメリカの製造業が衰退している原因が中国の不正にあるというのは、グローバル経済の原理が理解できていないということを白日の下にさらしたといえよう。にもかかわらず、この点について、討論会後のニュース解説などでもあまり扱っていないのはちょっと驚きだ。
総じていうと、今回の討論会は第一回とは異なり、今回の大統領討論会はオバマが積極的な攻勢に出て、ロムニーの政策の矛盾や「47%発言」などを攻撃していた。ロムニーがリビア問題でオバマが大使殺害を「テロ行為」と言わなかった(実際は翌日の9月12日、11回目の9/11に際してのスピーチで発言)という勘違いをしており分が悪い。ロムニーは「テロ行為という前提で行動しなかった」と言うべきところを「テロ行為と言わなかった」という点に限定してしまったことが失敗だった。
ただ、ロムニーのオバマの4年間への批判はそれなりに効いており、オバマは苦しい選択をしていたと言い訳をせざるを得ない状況に追い込まれていた。減税プランでも何とか乗り越えた。なので、トータルとしてはオバマが優勢であるが、引き分けという印象の討論会だった。
第二回討論会ではオバマはロムニーに対して攻めるというのをテーマにしていたようだが、その結果、ロムニーの批判とこれまでの政策の擁護に終始してしまい、これからどうするのか、二期目のビジョンを語るということができなかった。その辺にオバマらしさを感じず、オバマが魅力的には見えなかった。
CNNではオバマ46%、ロムニー39%でオバマ勝利の世論調査。実際は引き分けに近いと思うが、オバマ優位ではあった。これが選挙戦の流れを変えるまでは行かない気がするが、副大統領討論会以降、ロムニーのモメンタムは失われつつあり、この流れで選挙に行くとロムニーは厳しい。
以下は、討論会を見ながら書き綴ったツイートに若干加筆した文章です。まとまりがない文章ですが、ご海容ください。
今回の大統領討論会ではロムニーがやたら介入してくる感じで、やや感じが悪かった。ロムニーは外形的な数字で議論をするが、単純化しているのでパンチが効いていた。討論会後もCNNでは経済問題についてはロムニー優位という評価だった。
逆にオバマは政策論で対応するが、難しい話をできるだけ簡単にしゃべろうとしているが、それでも複雑な話なのでキレの点でちょっと弱い。今回はかなり攻勢に出ていたが、やはり4年間の実績を擁護するという立場である以上、これまでにとった難しい選択を何とか説明しようとするあまり、一般の有権者にはわかりにくい話になっているという印象だった。
実際問題として、政策決定者と一般の国民とでは困難な問題に対するパースペクティブが異なる。政策決定者の立場に立てば、様々な要素を勘案して政策決定をしなければならず、しばしば不人気な選択もしなければならない。しかし、一般国民は「わかりやすい、筋の通った」政策を求めようとする。
これはアメリカだけに限らず、日本でも他の多くの国でも見られる現象である。そのため、野党の挑戦者は、国民受けする「わかりやすい、筋の通った」政策を提示し、それが実現可能だと思えるようなプレゼンテーションをする。2009年の民主党が政権を取った時も、現実にその政策が実現可能かどうか、というよりも、国民受けする話をして権力を取り、政権交代してから政策のことは考える、という姿勢がありありと見えた。今年、フランスの大統領選で勝利したオランドは、既に選挙公約の実現をあきらめ、雇用や財政政策の対応が後手に回っている。
このような現代民主主義の状況をポピュリズムと評価することもできるかもしれないが、少し違うような気もしている。オバマもオランドも政権につくと、その現実に直面しポピュリスト的な政策を実施することができない。むしろ、問題になるのは野党の時の姿勢である。ある意味「野党のいい加減公約」現象とも呼べるような状況が生まれている。これは民主主義にとって大きな問題なのではないか、という気がしてならない。
さて、話は脱線してしまったが、討論会に戻ろう。
ロムニーは税の問題で攻められていたが、何とか乗り切った感じだ。ロムニーの減税プランは弱点だったが、控除とのバランスで大丈夫と印象付けた。ただ、単なる机上の空論にしか聞こえず、やはり信憑性は低いというのが私の感想。
大統領討論会ではPivotという「話題を変えて相手の攻撃をかわす」戦術が重要とされているが、ロムニーは減税プランの話で「計算が合わない」という指摘に対し、「オバマの4年間の計算が合わないから借金が増えた」といったのはまさに戦術的なPivot。こうした対応で問題をはぐらかしたとしても、ロムニーの減税プランはやはり無理があるような気がする。
このロムニーの減税プランはずっと批判されているが、私にとって一つだけ良いことがあった。それはarithmeticという単語を知ったことである。民主党のキャンペーンでキーワードになる言葉だが、これは日本語にすると「算術」という単語。不勉強ながら、これまで知らず、ロムニーの減税プランを批判する際によく用いられる単語なのですっかり覚えてしまった。
さて、また話が脱線してしまったが討論会に戻ろう。
今回のちょっとした驚きは、ロムニーが「アメリカに職を取り戻すためには中国にルールを守らせ、公正な競争をすればよい。中国はバッタもんをつくっているずるい国だからアメリカの仕事が失われる」(大意)と発言したこと。ロムニーがいかにビジネスで成功しようが、オリンピックの運営に成功しようが、アメリカの製造業が衰退している原因が中国の不正にあるというのは、グローバル経済の原理が理解できていないということを白日の下にさらしたといえよう。にもかかわらず、この点について、討論会後のニュース解説などでもあまり扱っていないのはちょっと驚きだ。
総じていうと、今回の討論会は第一回とは異なり、今回の大統領討論会はオバマが積極的な攻勢に出て、ロムニーの政策の矛盾や「47%発言」などを攻撃していた。ロムニーがリビア問題でオバマが大使殺害を「テロ行為」と言わなかった(実際は翌日の9月12日、11回目の9/11に際してのスピーチで発言)という勘違いをしており分が悪い。ロムニーは「テロ行為という前提で行動しなかった」と言うべきところを「テロ行為と言わなかった」という点に限定してしまったことが失敗だった。
ただ、ロムニーのオバマの4年間への批判はそれなりに効いており、オバマは苦しい選択をしていたと言い訳をせざるを得ない状況に追い込まれていた。減税プランでも何とか乗り越えた。なので、トータルとしてはオバマが優勢であるが、引き分けという印象の討論会だった。
第二回討論会ではオバマはロムニーに対して攻めるというのをテーマにしていたようだが、その結果、ロムニーの批判とこれまでの政策の擁護に終始してしまい、これからどうするのか、二期目のビジョンを語るということができなかった。その辺にオバマらしさを感じず、オバマが魅力的には見えなかった。
CNNではオバマ46%、ロムニー39%でオバマ勝利の世論調査。実際は引き分けに近いと思うが、オバマ優位ではあった。これが選挙戦の流れを変えるまでは行かない気がするが、副大統領討論会以降、ロムニーのモメンタムは失われつつあり、この流れで選挙に行くとロムニーは厳しい。
2012年10月12日金曜日
副大統領候補討論会
しばらくブログの更新を怠っていて申し訳ありません。この間、仕事が立て込んでいたこともありますが、一番大きいのは今年の9月からサバティカル(長期研究期間)をいただいて、アメリカのプリンストン大学に一年間留学することになったので、その準備とアメリカでの生活を立ち上げることにあたふたし、書き込む時間がありませんでした。ようやっと落ち着いて仕事ができる環境が整ったので、久しぶりにブログに投稿したいと思います。
アメリカは現在、大統領選の最終盤に差し掛かっており、ニュース専門チャンネルや朝夕のニュースも大統領選で一色になっています。ちょうど先ほど副大統領候補の討論会が終わったので、その感想を思いつくままに書いておきます。
副大統領討論会は一度しか開かれず、必ずしも大統領選の趨勢に影響があるというわけではありませんが、その前の第一回大統領候補の討論会でロムニーが優位に立ち、それが選挙戦の流れを変えていたので、この副大統領討論会で流れを断ち切れるか、というところが見どころでした。
CNNなどでは今回の副大統領討論会は引き分け、という評価でしたが、私個人としては、民主党のバイデンの優勢勝ちという印象です。
第一回の大統領候補討論会ではオバマがほとんど攻勢に出れず、受け身になってしまったことで、ロムニーが上手に立ったことを受けて、バイデンは積極的に攻めに出て、共和党のライアンをやり込めるというシーンが多くみられました。
ライアンは頭の回転の速い人ではありますが、やや知識と経験に欠けているという印象で、虚勢を張って自分たちは民主党と違う、自分たちはより良いことができる、と主張していますが、税制の議論でもかなり計算が怪しいという感じで、バイデンがツッコミを入れても具体的な回答が出せなかったので、「宿題をちゃんとやっていない」という印象が強く残りました。
また、ライアンは討論中、やたら水を飲んでいたのですが、バイデンは余裕を見せ、ライアンがしゃべっている時も、やや見下したような笑い方や、ライアンの話をさえぎるような発言が多く、ちょっと横柄(Rude)な感じがあり、どちらもビジュアル的な点ではポイントを稼げなかったように思います。
ただ、ライアンの締めのメッセージの時、カメラに向かって国民に話しかけたのですが、それがなんだか首相時代の安倍晋三を思い出させるような気味の悪さがあり、ちょっとネガティブに働いたかな、という印象です。逆にバイデンは年金を受け取る年齢の人たちに向かって話をするとき、カメラに向かって話をしたのですが、バイデン自身もその年齢なので、妙に馴染んでいたような感じがしました。
また、ライアンもバイデンもやたらに数字を出していたのですが、たぶん多くの人は数字を全部頭の中にいれてイメージを作ることは難しかったのではないか、という印象があります。もう少しわかりやすい描き方をした方が良かったのではないかと思います。
今回の討論会の司会者はABCのMartha Raddatzという人で、国際報道が中心の人だったので、リビアの米国外交官殺害やシリア、アフガンの問題を多く取扱い、経済や財政の問題については比較的時間が短かったのもバイデンに有利に働いたと思います。
というのも、現職の副大統領として、オバマと共に外交・安全保障の問題について一緒に働いているということをアピールする機会をバイデンに与え、下院議員であるライアンが知りえないインテリジェンスにアクセスできるので、情報量でバイデンが有利となり、ライアンは原則的なことを繰り返すしかなかったように思います。
大統領選の大きな争点である医療保険の問題については、両者の見解以上に事実関係の理解が全く異なっており、議論がかみ合っていないというか、「何が真実か」ということがわからないような状況でした。討論会ではお互い自分の有利になるような情報しか出さないので、話がかみ合わないのは仕方がないことでもあるのですが、それにしても、ライアンの方が柔軟性がなく、自分の言いたいことだけを言って、きちんと批判にこたえていないという印象がありました。
なので、どちらも完全に勝利したという印象ではありませんが、バイデンが有利に立ったと思います。しかし、すでに述べたようにこれは副大統領討論会なので、大統領選に決定的な影響を与えるということはありません。それでも、今回の副大統領討論会で、第一回大統領討論会の時にロムニーが提示した政策の欠陥を指摘し、本当に共和党に任せられるのか、という印象を与えたことで、バイデンに求められた仕事はこなしたのではないか、と思いました。
アメリカは現在、大統領選の最終盤に差し掛かっており、ニュース専門チャンネルや朝夕のニュースも大統領選で一色になっています。ちょうど先ほど副大統領候補の討論会が終わったので、その感想を思いつくままに書いておきます。
副大統領討論会は一度しか開かれず、必ずしも大統領選の趨勢に影響があるというわけではありませんが、その前の第一回大統領候補の討論会でロムニーが優位に立ち、それが選挙戦の流れを変えていたので、この副大統領討論会で流れを断ち切れるか、というところが見どころでした。
CNNなどでは今回の副大統領討論会は引き分け、という評価でしたが、私個人としては、民主党のバイデンの優勢勝ちという印象です。
第一回の大統領候補討論会ではオバマがほとんど攻勢に出れず、受け身になってしまったことで、ロムニーが上手に立ったことを受けて、バイデンは積極的に攻めに出て、共和党のライアンをやり込めるというシーンが多くみられました。
ライアンは頭の回転の速い人ではありますが、やや知識と経験に欠けているという印象で、虚勢を張って自分たちは民主党と違う、自分たちはより良いことができる、と主張していますが、税制の議論でもかなり計算が怪しいという感じで、バイデンがツッコミを入れても具体的な回答が出せなかったので、「宿題をちゃんとやっていない」という印象が強く残りました。
また、ライアンは討論中、やたら水を飲んでいたのですが、バイデンは余裕を見せ、ライアンがしゃべっている時も、やや見下したような笑い方や、ライアンの話をさえぎるような発言が多く、ちょっと横柄(Rude)な感じがあり、どちらもビジュアル的な点ではポイントを稼げなかったように思います。
ただ、ライアンの締めのメッセージの時、カメラに向かって国民に話しかけたのですが、それがなんだか首相時代の安倍晋三を思い出させるような気味の悪さがあり、ちょっとネガティブに働いたかな、という印象です。逆にバイデンは年金を受け取る年齢の人たちに向かって話をするとき、カメラに向かって話をしたのですが、バイデン自身もその年齢なので、妙に馴染んでいたような感じがしました。
また、ライアンもバイデンもやたらに数字を出していたのですが、たぶん多くの人は数字を全部頭の中にいれてイメージを作ることは難しかったのではないか、という印象があります。もう少しわかりやすい描き方をした方が良かったのではないかと思います。
今回の討論会の司会者はABCのMartha Raddatzという人で、国際報道が中心の人だったので、リビアの米国外交官殺害やシリア、アフガンの問題を多く取扱い、経済や財政の問題については比較的時間が短かったのもバイデンに有利に働いたと思います。
というのも、現職の副大統領として、オバマと共に外交・安全保障の問題について一緒に働いているということをアピールする機会をバイデンに与え、下院議員であるライアンが知りえないインテリジェンスにアクセスできるので、情報量でバイデンが有利となり、ライアンは原則的なことを繰り返すしかなかったように思います。
大統領選の大きな争点である医療保険の問題については、両者の見解以上に事実関係の理解が全く異なっており、議論がかみ合っていないというか、「何が真実か」ということがわからないような状況でした。討論会ではお互い自分の有利になるような情報しか出さないので、話がかみ合わないのは仕方がないことでもあるのですが、それにしても、ライアンの方が柔軟性がなく、自分の言いたいことだけを言って、きちんと批判にこたえていないという印象がありました。
なので、どちらも完全に勝利したという印象ではありませんが、バイデンが有利に立ったと思います。しかし、すでに述べたようにこれは副大統領討論会なので、大統領選に決定的な影響を与えるということはありません。それでも、今回の副大統領討論会で、第一回大統領討論会の時にロムニーが提示した政策の欠陥を指摘し、本当に共和党に任せられるのか、という印象を与えたことで、バイデンに求められた仕事はこなしたのではないか、と思いました。