いただいた質問は以下の通りです。
なお先生は、ドイツの決断の前提条件として重要だったと思われる、① 発電と送電の分離、②自然エネルギーの送電線への優先接続、③自然エネルギー導入の初期コストへのサポート(固定価格買取制度)、④消費者が電気を自分で選べるようになること・・についてどう思われますか?まず、①の発送電分離ですが、ドイツの場合、EUの電力自由化指令があり、発電市場の自由化を進める政策の一環として実現したものと理解しています。欧州大陸で隣国と送電網が接続されている状態なので、国境を越えた電力融通ができる市場があるという点がポイントと思っています。
日本は地域独占に加え、周波数が違うなど、国内ですら電力融通に苦労する状態で、おおよそ電力融通がうまくいく仕組みにはなっていません。私が住んでいる北海道は本州(東北電力管内)と60万キロワットの北本連系線しかなく、これでは電力構成のうち、再生可能エネルギーの割合が増えてきた場合、大変問題になると思います。
再生可能エネルギーは発電量が一定ではないという弱点があります。ですので、できるだけ広い範囲の送電網の中に位置づけ、太陽が照っているところで発電した電気を照っていないところに回したり、風が吹いているところから吹いていないところに回すという作業が必要です。スペインで再生可能エネルギーの導入が進んだのも全国規模の送電網と送電管理をやっていたからです。
その意味では、発送電の分離は極めて重要なだけでなく、全国レベルないしはアジア地域にまで広がる送電網を整備しないと再生可能エネルギーの導入は難しいと考えています。
②の再生可能エネルギーの優先接続ですが、これも上記の送電網の問題とかかわります。現在、再生可能エネルギーの接続が容量で制限されているのは、再生可能エネルギーが不安定な電源であるため、それぞれの地域独占の電力会社が管理できる規模でしか受け入れないという状況にあることが問題だと考えています。発送電が一体化されていることで、再生可能エネルギーの発電量が低い時は、他の発電(主として火発)での発電量を増やして調整するという形にしています。しかし、再生可能エネルギーへの接続を無制限にしてしまうと、発電量が足りない時に、他の電源から供給する限界を超えて電力が足りなくなる可能性が生じます。なので、再生可能エネルギーの接続が制限されるのです。
なので、①の回答と同じになりますが、大事なことはナショナル・グリッド、アジア・グリッドを整備し、できるだけ広い範囲で再生可能エネルギーによる電気を受け入れ、ある地域の不足分を他の地域の再生可能エネルギーの余剰電力でカバーするという仕組みが必要になると思います。
そのためには、まず発送電を分離し、送電網だけでも地域独占から解放してナショナル・グリッドを作り出す必要があると思っています。
③のFITの問題ですが、これは再生可能エネルギーを普及させるためには必要なことと思います。残念ながら、発電効率の悪さと発電コストの高さ、設備コストを考えれば、再生可能エネルギーの経済性は低く、FITのような形で下駄をはかせなければ普及は難しいと思います。現在の買い取り制度では太陽光発電で1kwあたり42円としているのですが、これは火発や水力と比べても高いものです(原子力発電のコストは様々な議論があるので、ここでは触れません)。
こうした高い電源であっても、原発をやめて、火発に依存する量も減らすためには再生可能エネルギーが必要であり、多少高い電気代でも(すでに日本の電気料金は相当に高い)かまわない、という国民的コンセンサスを作る必要はあると思います。私は個人的には再生可能エネルギー普及のためのコストとして受け入れるのは良いことだと思っていますが、景気後退し、経済的に困窮する人が増える中で、本当に再生可能エネルギーを普及させるために、国民が電気料金の値上げにコンセンサスを取れるのか、についてはあまり確信はありません。
④の消費者の電源選択ですが、これはあるべきだと思います。ただ、この時に問題になるのは、原発も選択肢として残すかどうか、という問題があると思います。すでに建設・運転済みの原発であれば、純粋な燃料コスト+運転コスト+バックエンドコストだけ見れば、発電コストは安くなります(事故のコストは含んでいません。これをどう対処するのかについては意見が分かれるところですが、とりあえずここでの議論では事故のコストは含まないとします)。そうなると、産業界から見れば、安定し、質の高い、大量の電気が供給されるのであれば原発を使いたい、という選択もありうるからです。
この問題は、これから将来にわたって原発をどうするのか、つまり(1)全廃、(2)最低限の数基だけを運転する、(3)稼働可能なものは年限(40年)まで使う、という選択肢ともかかわってくる問題なので、連立方程式のように解を見つけていかなければならない問いだと思います。
個人的には、短期的には(2)最低限の数基だけを運転し、その間に再生可能エネルギーの普及とナショナル・グリッドの整備を進めること、その間の電気料金の値上げは甘受することが求められるのかな、と考えています。その中で、ナショナル・グリッドが整備され、再生可能エネルギーが普及し、十分コストが下がってくれば、(1)原発の全廃(もちろん廃炉にした後も放射線の管理は必要ですし、使用済みの核燃料の処理のコストとリスクは付きまといます)へと進んでいくべきだと思います。
ただし、色んなコンティンジェンシーが考えられます。たとえば再生可能エネルギーの技術がうまくいかないとか、コストが下がらないという問題、また化石燃料の価格が高まっていくという問題、老朽化した火発が事故や故障で運転できなくなるような状態など、いろんなリスクがあると思うので、それらについても想定しながら、しっかりとしたバックアッププランを作ってやっていくことが大事だと思います。
当然、需要側の調整も必要だと思います。これまで30%の発電を担い、ベースロード電源であった原発がなくなるわけですから、電力供給にはいろんな無理がかかることになると思います。できるだけ供給側の負担を減らすためにも、需要側の調整、つまり節電が必要だと思います。
ただし、無理な節電は産業界や雇用にも影響してきますし、真夏に冷房をつけないといった身体への影響や、バリアフリーのためのエレベーターを止めるといった弱者へのしわ寄せといったことも起きます。そういう無理な節電はするべきではないと思っていますし、それはもう「節電」とは呼べず、電力不足への対応というべき行為だと思っています。
ですので、需要を下げるにしても、限界はあると思うので、供給側も頑張らないといけないと思います。そのためにも、短期的には最低限の原発の再稼働(たとえば北海道であれば最新の泊原発3号機だけ)を認め、長期的に原発をなくしていくという方向で考えていくべきなのだろうと思っています。
長くなりましたが、これにて。
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